”聴いてもらえるデモテープ”。 デモテープは当然聴いてくれる人のことを考えなければいけません。 ところが、この当たり前のことを忘れてしまうがために、 自分で自分の評判を落とすために作ったかのような、 ”ダメなデモテープ”が作られてしまうのです。 デモテープは本来、 自分の音楽がいかに素晴らしいかを知ってもらうためのもので、 決して、自分の達成感や自己満足を充たすものではないのです。
僕自身も音楽に携わる生活が長くなりました。 周りに後輩という立場の人間も増えました。 そんな後輩達から”聴いて下さい”とデモテを渡されることも多くなりました。 しかし、その大半が再生してから、 3分と聴いていられないものばかりでした。 (後輩でなかったら30秒かも?) だからと言って、 必ずしも”曲がダメ”というわけではないのです。 そう、ただ”デモテがダメ”なだけなのです。 本当にそういうときは、ただただ”もったいない!”と思います。
実はこんなふうにして、自分をアピールすることに失敗している人々が意外に多いのです。 (僕自身もそうでした。) ただ、僕の場合は先輩ミュージシャンらの指摘で、 デモテの作り方自体がおかしかったことに気づかされました。 そう、これから述べることは先輩から直接教わったことだったり、 僕自身が経験上で覚えてきたことです。 最近は大学の音楽サークルや、ライブハウスもあまり盛況ではないようで、 ひとりで、とか、仲間うちで音楽活動をしている人も多いようです。 音楽の知識も”本を読んで”得る、 というケースが増えているみたいです。 あまり人から人へノウハウが伝えられることも少ないようです。 ”せっかく覚えたいろんなノウハウを、ここで絶やしていものか?” そんなことを思ってこのページを作りました。 市販の”レコーディング入門”などでは、 触れられることの少ない、 デモテ制作において、 初心者が陥りやすいワナを避ける方法を述べていきます。 そしてその大部分は、 ”聴く人”の立場になることによって解決できることが分かってもらえると思います。
まず圧倒的に多いケースが”音が悪い”です。 よくある例としては、 ”音が小さくて聴こえない、 ボリュームをあげるとノイズの音も一緒に大きくなる”とか、 ”全体的に音が歪んでいて、耳が痛くなる”いうものがあります。 これら二つは録音レベルの設定を誤ったことが、原因です。 前者は録音レベルが小さい、後者は逆に録音レベルが大きいのです。 こういう音の悪いテープを作ってしまった後輩がこんなことを言っていました。 ”音質よりも曲そのもののよさで勝負したい。” うんうん気持ちは分かります。昔は僕もそういうことを言っていました。 だけど、音が悪いと伝わるものも伝わらないんです。
例えば、 うちにはビートルズのデビュー前のライブ音源のテープがあるんだけど、 これが聴き辛いったらありゃしない。録音がひどい。 ザワザワいう客の声の遠く遠く向こうでジョンレノンらしき人が、 なんかうたっているみたいだ・・・そんな音源です。 (アンソロジーとか出るより前に発売されていたものです、 ブートなのかな?) いくらビートルズ好きの僕でも、これはほとんど聴きませんでした。 聴いていても、全然気持ちよくないからね。 つまり、偉大なるジョンレノンですら、 録音状態のひどいものは聴くのが辛いです。 ましてや、 どこの馬の骨とも分からないアマチュアの音源で音が悪いのは致命的です。 曲のよさを伝えたいなら、なおさらのこと、 聴く人がノイズやらボリュームやらに気をとられずに、 集中して曲そのものに向き合えるようにしてあげるべきです。
それから”ダメなデモテープ”の例としてありがちなのが、 ”必然性のないライブ音源”です。 ライブハウスに出たことのある人なら大抵、 その日の演奏をテープにとってもらったことがあるでしょう。 ライブ後に自分達の演奏をチェックすることはとても大切です。 それはおおいにやるべきですが、 果たしてそれを、そのまま、 ”デモテープです。”と使っていいものでしょうか? ここで言っておきたいのは、必ずしも ”いいライブでの録音=いいデモテ”ではないということです。 いいライブとは、なんでしょうか? ライブ経験を積んだ人なら分かると思いますが、 ”いいライブ、即ち、=いい演奏”ではないのです。 (特に初心者ではなおさら) 例えばそこにいたお客さん達のノリがよかったとか、 MCが面白かったとか、 演奏している人の顔に気合いが入っていて、 見ていて気持ちがよかったとか・・・。 つまり演奏以外の要素も含めた諸々全ての総合がいいライブを生むのです。 そこまでの要素がそのライブ会場にいなかった人にまで伝わるくらいに、 臨場感のある録音がされているでしょうか? もしそうであれば、 ”必然性のあるライブ録音”ということに一歩近づきますが、 冷静な耳で聴いてみると意外と、 そこまでの要素をカバーするライブ録音はなかなかないものです。 さらに”初心者でも出れます”というようなライブハウスの中には、 実にいいかげんな録音をしているところもあります。 (テープデッキの回転速度のおかしいところなんかもザラです。) そこまでひどくなくても、多くの店では、 PAの卓から直接、 ラインでテープに落とすという方法をとります。 この方法だとPA卓でとったバランスで(つまりステージ内と同じ)、 録音ができます。余計な会場内の物音も入りません。 音が割れる心配もないです。 ところが、この方法だと、先ほど述べた、 ”いいライブを構成する諸要素”を取り込むことができないのです。 本人達は”このライブの雰囲気を伝えたい!”と思って、 自信たっぷりで人に聴かせても、会場の空気感のないものでは、 その場にいなかった人には意外によさが伝わらないものです。 よほど、技術に自信があるか、 ライブでなければならない理由のない限りは、 ライブ録音で・・・というのはあまりお勧めできません。 どうしてもそのライブ音源で、というときは、 是非ラインと客席で実際に聞こえている音(エアーというらしい) をまぜて録音してもらい、 ダビング前にテープの回転速度がおかしかったり、 音が小さい (←音割れを避けようとするあまりこうなりやすい) ものは、MTRなどを使って、調整する気遣いが必要です。*ただ「ライブ録音は絶対にダメ」というわけではありません。臨場感を伴って、ライブならではのプラスアルファが感じられる音源が録音できているのであれば、それはまた「よいデモテープ」となる可能性のあるものです。最近ではライブやスタジオでの「一発録り」に適したレコーダーなども開発されています。例えば、最近僕自身も購入して使っているローランド「R-09」などは電気ヒゲそりのようなサイズでありながら高性能のマイクを内蔵していて、かなり臨場感のある録音が可能であると感じました。ライブ会場やスタジオで「自分の耳で聞いてバランスよく格好よく聞こえる場所」にこのレコーダーを置き、レベルを適切にセッティングするだけで、いい感じの録音ができました。「耳で聞いた時の感じ」と「実際に録れた音」の差があまりないというのは、非常に有り難いことです。「このレコーダーは音楽を分かってるよなあ」というのが僕の感想です。ただし、こういった機器を使用する際にもセッティング場所やレベル設定へのケアは必要です。
最近は一人で活動をしている人も多いでしょう。 そんな人が作ってしまいがちなのが、 超”内向き”なデモテです。 楽器がちゃんと鳴っていない、 声が出てない。 ”ボソボソのボーカル&つないでないエレキ” なんて音源は聴かされた方にしたら、気持ち悪くてたまりません。 (狙っているならいいですが。) ”うちのアパートでは、10時以降は音出し禁止なんで・・” なんて言わないで、 リハーサルスタジオの個人練習でも利用するのがよいと思います。
それから、”内向き”ということで言えば、バンドの音源でも、 例えば、”バンド内でしか通じないネタ”を使っていたりするのも、 ”内向き”と言えます。”ベースの**君を茶化した曲”なんかは、 それが普遍的芸術表現の域に達していない限りデモテの選曲には適していません。 (まあ、やっている本人達はメチャメチャ楽しいんだけどね。)
どんなに気を使ってもデモテ作りはその作業形態上、 密室的なものになりがちです。 とことん密室系の音楽を目指す人は別ですが、 ”ロックだぜ!”という線でいこうとする人は特に、 ”内向き”にならないように気を使うべきです。 実はこれは、とても難しいことです。前に出ていく音、 伝わる音を作るには、本当に長い道のりを要します。 でも、”聴いてくれる人”の存在を、 常に忘れずにいる姿勢は持ち続けていかねばならないと思います。