〜あの曲とあのシーンの関係〜

 前回ジョンレノンについて書いたところこんな手紙が僕のもとに届いた。 「・・・私の場合、ビートルズ初体験は角川映画の”悪霊島”テーマソングだった”レットイットビー”でした。 最近になって私の周りに同じビートルズ初体験をしている友人が多い事に気付きました。 とすると、これはハルキが後世にのこした偉大な業績ということになるのでしょうか。 ともあれ、私のビートルズ初体験は、君のように美しいものではなく、おどろおどろしい殺人事件と結びついているのです。」 ハルキのスゴさについては僕も認めるところだけれど、意外に名曲との出会いは何かのBGMだったりすることが多い。 それが作曲者の当初のイメージからかけ離れたものと結びつけられてしまう場合もある。 そういう僕自身も、ピンクフロイドを聴いてはブッチャーやタイガージェットシンを思い出し、レッドツェッペリンの”移民のうた”を聴いて「ブロディのとはヴァージョンが違うな・・」などと考えてしまう可愛そうな人種の一人だったりする。 (注、プロレスラーの入場テーマ曲の話です、知らない人には失礼しました。)
 一時ほどではないにしろ今でもヒットチャートの曲の多くはドラマやCMのタイアップ曲である。格好いい映像や泣けるシーンにあわせて流される曲はやはり印象に残るものだしそれも仕方ないのかなと思う。 僕としてはもう大分前のことになるけどJRの同じCMのシリーズで尾崎豊の”I love you”や佐野元春の”SOMEDAY”が使われていたのが印象に残っている。 僕の好きなアーチストの曲がCMにのせられて有名になっていくのは嬉しかったけれどカラオケボックスあたりで酔っ払いにがなりたてられながら歌われるそれらの曲を聴くのは辛いと感じたのも本当のところだ。他人の曲でさえそう思ってしまうのだから自分の曲がもしそんなふうになったらどうしよう、なんていらぬ(?)心配もしてしまう。 そういえば村上龍の小説の中に”SOMEDAY”というタイトルの作品がある。風俗で働く女の子の話で、もちろん話の中に元春の”SOMEDAY”も登場する。 この小説に対する元春のコメントはといえば、「正直にいうと僕の曲とはあまり関係がない気がした。 だけどそれぞれの人にそれぞれのサムデイがあっていいと思う。」といったものだった。 そう、曲というのは不思議なものでいったん生まれてしまうと作者の手を離れていろいろな人の思いを吸い込んで勝手に成長していくものだ。誰もが自分の生きてきた様々なシーンにそれぞれのBGMを持っていると思う。 受験勉強しながら聴いた曲、デートのときに流れていたあの曲、あいつが好きだったあの曲。 この曲を聴くとどうしてもあの頃のこと思い出すといった体験が誰にでもあると思う。 本当は、ドラマやCMが用意してくれた設定なんかよりもそっちの方が大切なんだと思う。僕の曲はまだ全国どこででも聴けるというわけではないけれど、ライブで繰り返しうたっているうちに曲がいろいろな人の思いを吸い込んで大きくなっていくのを感じることがある。 そんな時は心からこの道を選んで良かったと思う。 だからライブでどの曲をうたうかを決めるのには本当にいつも苦労している。 僕は、僕の曲がみんなのそれぞれのシーンのかけがえのないBGMになることを願っている。 だからドラマやCMとのタイアップうんぬんといったことには全く興味がない。 (注、金銭欠乏時や諸雑労働過剰時は除く。でも最近はいつもどっちかの状態にある気がする・・・いや、どっちも、という説もある。Help me!) 少しでも多くの人がライブに来てくれて僕の曲を知ってくれたらいいな。

もどる